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ガンを治療するワクチンの開発が進んでいます。広がる治療選択枝

[2026.08.30]

がんを“狙い撃ち”する時代へ

注目が集まる「個別化mRNAがんワクチン」とは?

「がんにもワクチンがある」と聞くと、子宮頸がんを予防するHPVワクチンのようなものを想像するかもしれません。

しかし今、世界で開発が進んでいる「がんワクチン」は少し違います。

すでにできてしまったがんを、患者さん自身の免疫に攻撃させるための“治療用ワクチン”です。

特に注目されているのが、COVID-19ワクチンでも広く知られるようになったmRNA技術を利用した、患者さん一人ひとり専用のがんワクチンです。

一人ひとりのがんに合わせてワクチンを作る

がん細胞には、正常な細胞にはない遺伝子変異があります。

その結果、がん細胞の表面には「ネオアンチゲン」と呼ばれる、そのがん特有の目印が現れることがあります。

そこで、

手術で採取したがん組織と血液を詳しく遺伝子解析
→ がん細胞だけに存在する目印を探す
→ その目印を免疫に覚えさせるmRNAワクチンを作る

というのが、個別化mRNAがんワクチンの考え方です。

いわば、

「この患者さんのがんの顔写真を免疫細胞に見せて、見つけたら攻撃してくださいと教える」

ような治療です。

メラノーマでは5年間の効果が確認されつつある

現在、最も研究が進んでいるのが悪性黒色腫(メラノーマ)です。

モデルナとメルクが開発している個別化mRNAワクチン
intismeran autogene(旧mRNA-4157/V940)では、患者さんごとに最大34種類のネオアンチゲンを選び、一つのmRNAワクチンとして作製します。

これを免疫チェックポイント阻害薬のペムブロリズマブと組み合わせます。

手術後の再発リスクが高いメラノーマ患者さんを対象としたKEYNOTE-942試験では、5年間の追跡で、

再発または死亡リスクを約49%低下

さらに、

遠隔転移または死亡のリスクを約59%低下

させる結果が報告されました。

5年無再発生存率も、

ワクチン+ペムブロリズマブ:約69%
ペムブロリズマブ単独:約49%

と、大きな差がみられています。

ただし、まだ比較的小規模な第II相試験です。

現在は、より多くの患者さんを対象とした第III相試験が進行しています。

難治性の膵臓がんでも希望が

さらに興味深いのが膵臓がんです。

膵臓がんは、これまで免疫療法が効きにくいがんの一つと考えられてきました。

ところが、手術後の膵臓がん患者さんに個別化mRNAワクチンを投与した初期の研究では、16人中8人でがん特異的なT細胞が強く活性化しました。

そして、免疫反応が起こった患者さんでは、起こらなかった患者さんと比べて再発までの期間が明らかに長かったことが報告されています。

さらに驚くことに、このワクチンで作られたT細胞の一部は、数年にわたって体内に残る「記憶T細胞」へと変化していました。

つまり一度がんの特徴を覚えた免疫が、長期間にわたりがんを監視している可能性があります。

現在は国際共同第II相試験で、本当に再発を減らせるのかが検証されています。

肺がんなど、ほかのがんにも研究が広がっている

肺がんでもmRNAがんワクチンの臨床試験が進んでいます。

特に現在期待されているのは、進行して大きくなったがんをワクチンだけで治すというより、

手術でがんを取り除いた後、体内に残っているかもしれない微小ながん細胞を免疫で排除する

という使い方です。

これはとても重要なポイントです。

がんが大きく進行すると、がんの周囲には免疫を抑え込む環境が作られるため、ワクチンだけでは十分な効果を発揮できない可能性があります。

一方、手術後の「がんがほとんどない状態」であれば、残っている少数のがん細胞を免疫が見つけて攻撃しやすくなります。

そのため今後のがんワクチンは、

「進行がんを小さくする治療」よりも、「手術後の再発を防ぐ治療」

として大きく発展する可能性があります。

がん治療は「患者ごとにワクチンを作る」時代へ?

これまでの抗がん剤は、同じ種類のがんであれば基本的に同じ薬を使用してきました。

しかし個別化mRNAがんワクチンでは、

患者さんAにはAさん専用のワクチン、
患者さんBにはBさん専用のワクチン

を作ります。

まさに究極のオーダーメイド医療です。

もちろん、まだ課題もあります。

ワクチン作製には遺伝子解析が必要で、時間や費用もかかります。どのネオアンチゲンを選ぶのが最も効果的なのかも、研究途上です。

また、メラノーマ以外ではまだ第I相・第II相試験が中心であり、「多くのがんで効果が確立した」と言える段階ではありません。

それでも、

自分自身の免疫に、自分自身のがんを見つけさせる。

そんな治療が現実のものになり始めています。

mRNA技術は、新型コロナワクチンをきっかけに世界的に知られるようになりました。

その技術が次に大きく医療を変える分野の一つが、もしかするとがん治療なのかもしれません。

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