微小血管狭心症
微小血管狭心症(microvascular angina、MVA)は、冠動脈の主要な血管に異常がないにもかかわらず、心筋の血流が低下し、狭心症症状が現れる病態です。この疾患は、特に女性に多く見られる傾向があります。
実例として、明らかな狭心症の症状はあるけど、カテーテル検査では問題ない。心筋シンチでは異常ありという時に存在を疑うことが多いです。
特徴
-
主な症状
- 労作時や安静時に胸痛や胸部圧迫感を感じる。
- 症状が数分から数十分続くことがある。
- 心電図に異常が現れる場合もあるが、典型的な狭心症の特徴とは異なることが多い。
-
診断時の血管所見
- 冠動脈造影検査では血管の狭窄や閉塞が見られない。
- 微小血管(冠動脈内の細かい血管)の機能的異常が原因とされる。
-
頻度
- 女性、とりわけ閉経後の女性に多い。
- 心筋虚血がある患者の中で10〜30%程度が微小血管狭心症と推定される。
発症メカニズム
-
微小血管の内皮機能障害
- 内皮細胞が正常に機能せず、血管が適切に拡張しない。
- 血管収縮が亢進し、心筋への血流が不足する。
-
血管平滑筋の異常
- 微小血管の平滑筋が収縮しすぎることが血流低下の原因になる。
-
炎症やストレスの関与
- 炎症性物質や心理的ストレスが微小血管の機能を悪化させる場合がある。
-
ホルモンの影響
- エストロゲンの低下が微小血管機能に影響を与えることが示唆されている。
診断方法
-
非侵襲的検査
- 運動負荷試験や心筋血流イメージング(心臓MRIや核医学検査)で微小血管障害を評価。
-
侵襲的検査
- 冠血流予備能(CFR: Coronary Flow Reserve)
冠動脈内に薬剤を投与し、血流の変化を測定する。 - 心筋灌流圧測定
微小血管の抵抗性を評価。
- 冠血流予備能(CFR: Coronary Flow Reserve)
-
他疾患との鑑別
- 冠攣縮性狭心症、MINOCA、心臓神経症などとの鑑別が必要。
治療
-
薬物療法
- カルシウム拮抗薬
血管を拡張し、微小血管の血流を改善する。 - 硝酸薬(ニトログリセリンなど)
微小血管に効く場合があるが、効果が限定的な場合もある。 - β遮断薬
心拍数を下げて心筋酸素需要を減らすが、一部患者で症状を悪化させることがあるため注意。 - 抗血小板薬
血小板凝集を抑えることで血流を改善する可能性。 - ACE阻害薬やARB
微小血管の内皮機能を改善する。
- カルシウム拮抗薬
-
生活習慣の改善
- 禁煙、適度な運動、ストレス管理が重要。
- 地中海式食事(抗酸化作用のある食品を多く含む食事)が推奨されることもある。
-
心理的支援
- ストレスが症状を悪化させるため、カウンセリングやリラクゼーション法が有効。
予後
- 微小血管狭心症自体は直ちに命に関わることは少ないですが、生活の質(QOL)を低下させる可能性があります。
- 適切な治療で症状のコントロールが可能です。
- 動脈硬化性疾患のリスクを持つ場合、それに対する予防治療が必要です。
まとめ
微小血管狭心症は冠動脈に狭窄がなくても発症する特殊なタイプの狭心症です。特に女性に多く見られるため、症状があれば早期に医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが重要です。